ゆうやんのアトランタ路地裏ブログ

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マイルドセレクトと親父

父の日になると、各々の父との思い出がツイッターで語られて、俺も親父のことを思い出す。

俺の場合、まず思い出すのは「マイルドセレクト」。

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親父が愛して止まなかった、今は無きタバコの銘柄だ。廃盤となってからは色々なタバコに手をだし、セブンスターに落ち着いてはいたが、いつもマイルドセレクトを吸いたいと言っていた。

 
親父は、俺が中2の時に癌になった。発覚した時には末期癌で、即入院となった。

とはいえ、親父は食事がほとんど摂れないことを除けばものすごく元気だった。可愛い看護師さんの名前を俺に教えてきたり、入院中にも関わらずコンタクトレンズを欠かさなかった。

中でもタバコの量だけはむしろ増えて、その時に「死ぬまでにマイルドセレクトが吸いてぇなぁ」なんて愚痴をこぼして笑っていた。もしかしたら、俺を心配させたくなかったのかもしれない。

 
だから俺は日々、マイルドセレクトを探していた。コンビニには元々廃盤になる頃には既になかったため、小さなタバコ屋などをたまたま見つけると、店員に訊ねる。探していると言ってもその程度だ。「マイルドセブンならあるよ」というお決まりの返しにも慣れていた。

 
2ヶ月後、親父の容態が急変して、家族が呼び出された。その頃には親父はタバコもほとんど吸わなくなくなり、誰の目から見ても弱っていた。だから、いよいよという覚悟が俺と母にはあった。

病室に座り、弱った親父を二人で見つめる。

親父は体を鍛えることが趣味で、仕事の休憩中にも筋トレをしていたほどだった。NTTを辞めてからも毎日5時間ゴルフをして、その後マラソンに行っていた。今の俺なんかより、よっぽど健康的な肉体をしていた。
だが、ベッドで眠る親父は、衰弱しきっていた。病院で見たどの親父よりも、弱弱しかった。

中学生の俺は、親父との死別について、心構えがある程度出来ていた。それでもいざ死に目を見るのは、俺には耐えられなかった。

だから俺は外に出ることにした。「死ぬ瞬間を見たくない」という幼稚な理由を隠すために、「親父のタバコを買ってくる」と言って。

 
近隣を駆け回り、俺は闇雲にマイルドセレクトを探した。とにかく、今起きていることから目を背けるために走った。もちろんタバコは見つからなかったが、心のどこかではそれを望んでいたのかもしれない。

気が付いたら、3時間が経過していた。それがなぜわかったかというと、母から電話があったからだ。それは臨終の知らせだった。

10月だというのに俺は汗だくで、その瞬間、汗がじわりと額を伝ったのを、覚えている。

 
親父の死に目に立ち会えなかった後悔は、徐々に増して来た。毎年、父を思い出す行事があると、その後悔がこみ上げてくる。

逝く前に、親父は俺の顔を見たかっただろう。伝えたいことがあったかもしれない。だが俺のワガママで、親父の最期の機会を奪ってしまった。

 
父の日と、そして墓参り、命日。これらの時、毎年俺は仏壇とお墓にタバコを供えることに決めている。

一度逃げてしまった俺にできることといえば、親父のためにマイルドセレクトを探すことぐらいだ。

いつもマイルドセレクトは見つからない。10年以上前に見つからなかったタバコが今更売っているわけもない。それはわかっている。

それでも、探す。

 
結局今年もマイルドセレクトは見つからず、仕方なく俺はセブンスターを供えた。すると親父の愚痴が聞こえてくる。
「やっぱり味が違う」何度も聞いた、お決まりの文句。両手を合わせながら、心の中で答える。
「ごめん、マイルドセレクトなかった」

 
マイルドセレクト。

どんな味かは俺にはわからない。でもきっと、親父の最期から逃げてしまった記憶と同じぐらい、苦いのだろう。