ゆうやんのアトランタ路地裏ブログ

Magic: The Gatheringの大会参加レポやデッキガイドなど

なぜ僕はローグデッキを使うのか

■イントロダクション

近頃、格闘ゲーム界隈で「強キャラを使うべき」というブログが話題になっていました。
僕自身は格闘ゲームは丸っきり門外漢なので、格闘ゲームにおいて「強キャラを絶対に使うべきなのか」ということについては特に意見を持ち合わせていません。
ただその最中、「この話がTCGにも通ずるものがある」という主旨の意見を多数目撃したので、自分の意見を言いたくて、最初はTwitterでつぶやきました。

ですが、いざつぶやいてみて、140文字以上に言いたいことがあったため、こうして書き記すことにしました。

カード名がほとんど出てこないマジックのお話ですが、どうか最後までお付き合いいただけたらと思います。

 

■ローグデッキとは

ハースストーンのヒーロー、ローグを使ったデッキでもなければ、もちろんならず者(Rouge)にフィーチャーしたデッキでもありません。
ローグデッキとは、いわゆる「メタ外デッキ」、「Tier1,Tier2以降のデッキ」のことです。

さて、ローグデッキは、弱いデッキなのでしょうか?
答えは「はい」であり、「いいえ」です。
大多数のプレイヤーが選択しないということは、それだけの理由があります。トーナメントで勝利するために必要なのは、「デッキパワー」「安定感」「柔軟さ」と様々ですが、その内のどれか、あるいはすべてを満たしていない可能性があります。
デッキが強ければ、誰もがそれを使いますよね。Caw-Bladeも、霊気池も、ティムールエネルギーも、多くのプレイヤーが勝利のために選択していました。
単純に使用者が少ないということは、勝つための何かが欠けている可能性が高いのです。

「いいえ」と言ったのにも、理由があります。
誰もそのローグデッキの強さに気が付いていないかもしれません。そのローグデッキは、潜在的にはTier1に駆け上がる力を秘めていながら、誰も試そうとしなかっただけなのかもしれないのです。
その場合には、トーナメントで活躍を続ければいずれはTier1の一角に上がり、ローグではなくきちんとした名称を与えられることになります。モダンの「ランタンコントロール」は、ローグからプロツアー優勝へとのし上がったシンデレラデッキと言えるでしょう。

 

■ローグデッキの魅力

・想定外
ローグは、対戦相手にとって想定外のデッキです。それゆえにミスを誘いやすいと言えます。
《泥濘の峡谷》と《水没した地下墓地》から《光袖会の収集者》が出てくればそのデッキはグリクシス・エネルギーでしょう。ともなれば、《ヴラスカの侮辱》を打つべきは《スカラベの神》だとわかるし、《致命的な一押し》を他のクリーチャーに温存することはないでしょう。

では、《泥濘の峡谷》と《水没した地下墓地》から《霊気装置の設計図》が出てきたらどうでしょうか?何に除去を当てればいいのか、もっと後のターンでは《暗記+記憶》を構えてターンを返すべきなのか、フルタップで《スカラベの神》を出しても良いのか、判断に困りますよね。

このように、相手の想定外のデッキを使うことで、正しいプレイを行わせづらくできます。



・デッキビルダーとしての喜び
また、ローグデッキを使って勝利を収めることは、メタデッキを使用した場合とは違う意味もあります。
誰も思いつかなかった全く新しいデッキを生み出し、それを世に送り出し、TwitterなどSNS上で話題になるということは、デッキビルダー冥利に尽きるというものです。
この快感に耽溺するデッキビルダーが後を絶えません。それぐらいの魅力です。

 

■なぜ僕はローグデッキを使うのか

ここでタイトルの話になります。
前提として、僕はローグデッキが好きです。グランプリでもよくローグデッキを使用しますし、日本語公式からの取材を受けたことも何度かあります。

mtg-jp.com

もちろん、取材を受けることはとても名誉であり、嬉しいです。
ですが僕は、取材を受けたいからローグデッキを使おう、と考えたことは今までただの一度もありません。
そして、新しいデッキを生み出す快感も、ほとんどありません(0といったら嘘になります)

僕がローグデッキを使うただ一つの絶対的な理由は、「ローグデッキを使用した方が勝てるから」に他なりません。
いわゆる強デッキを使用する人たちが「トーナメントで勝ちたいから」強いデッキを使っているのと全く同じ理由で、勝つために僕はローグデッキを使っています。

「ローグデッキを使う理由は、負けた時に言い訳にできるから」という意見も目にしましたが、僕個人の話をするなら、そんな考えは全くありません。
トーナメントに出場する以上、勝ちたいというのが僕の考えです。負ける言い訳なんてものは最初から存在しません。
あっさりと負けてしまうこともありますし、そうなればこのデッキのコンセプトがいまいちだったという結論に至ります。ですがそれは、「負けた理由をローグデッキのせいにしている」のではなく、「このデッキが勝てると思ってしまった自分が悪い」という自責によるものです。

負けて納得ができるはずがありません。負ければ悔しいです。

もう一度、はっきりと言います。僕は勝つためにローグデッキを持ち込んでいます。

 

■ローグデッキの方が勝てる理由

突然ですが、トーナメントマジックで勝つ方法とはなんでしょうか?

色々と必要なものはあると思いますが、まずは勿論、練習ですよね。そして何の練習をするかと言えば、その環境で最も強いデッキを練習するでしょう。
強いデッキについては、そのデッキコンセプト・サイドボード後のプランに至るまで、あらゆる対戦相手が研究しています。相手の用意に対して打ち勝つためには、幾度となく練習を繰り返し、最適なサイドボーディングとプランを見つけなければなりません。
少し前にスタンダードで頻発していたティムール・エネルギーのミラーマッチはまさにその極地と言えます。サイドボード後は《牙長獣の仔》がサイドアウトされましたが、あれは先手2ターン目に唱え、除去されなかった時にのみ強く、後手番・2ターン目以外で引いた時にすぐに死に札となってしまうからでした。
この結論は、練習することによって得られる成果です。
この一例については、記事を読めば同じことができますが、それだけで勝てるわけでもありません。貴方が記事を見ているということは、対戦相手も読んでいる可能性があります。だから《牙長獣の仔》を抜くことで相手を出し抜けるかどうかは定かではないのです。

結局、記事を読んだだけでは、ある程度熟練したプレイヤーとのミラーマッチにおいては運が大部分を占める勝負になります。そしてそれを乗り越えるためには練習が不可欠です。

つまり、
「その環境で最も強いデッキを使い、ミラーマッチを含めたあらゆるデッキと沢山マッチをこなし、適切なサイドボーディング・ゲームプランを知る」
これが、トーナメントマジックで勝つ方法と言えます。

閑話休題
そしてズバリ僕は、好みでないデッキを使用して練習に打ち込むことが恐ろしく苦手なのです。
好みでないデッキで練習をすることが苦手なため、どうしても試行回数を重ねるのが苦痛になります。プレイの習熟も遅く、冴えません。苦手な科目を勉強しているのと同じ状態だと考えてください。

一方、自分で一からデッキを作った場合は、状況は全く異なります。何せ自分が全部作るのですから、好みでないはずがありません。
見つけたローグデッキをいじっている時も同様です。ネットの海に沈んでいる数多のリストから興味を持ったものをピックアップしたわけですから、好きな要素が詰まっているに決まっています。
好きなデッキであれば、僕はいくらでも時間を使えますし、プレイの精度も上がります。数マッチで悪い点は見えてきますし、仮想敵に対してどういったプランを取れば勝てるか、などの考えも冴えます。結果的に、Tier1のデッキよりもローグデッキを持ち込んだ方が、高い勝率が出せるのです。

これを「逃げ」と言えばそうだと思います。Tier1デッキによるミラーマッチを研究することを諦めて、ローグデッキで勝とうとするのは、辛い練習から逃げているのと同義です。

それでも、「Tier1のデッキを練習すること」と「楽しいローグデッキを練習すること」のどちらの方がよりパフォーマンスを発揮できるかというと、僕は後者なのです。


これが、勝つためにローグデッキを選択する理由です。そして後者においてパフォーマンスを発揮できる理由であるメンタルについて、もう少し掘り下げます。

 

■マジックとメンタル

マジックで勝利するために必要な要素。
「練習」「デッキ(構築力・選択力)」「運」「プレイスキル」。他には一体何があるでしょうか。
僕はそこに「メンタル」が加わると考えています。そしてこのメンタルは、最重要と言っても過言ではないのです。(メンタルと一言で言ってもその内容は様々ですが、今回はモチベーションについて考えてみていただければと思います)

先程も言いましたが、僕は好みのデッキを使っている時に、モチベーションが上がります。マジックをプレイしている時間そのものが楽しいため、練習が苦痛になりません。練習中に沢山のことを、楽しみながら吸収できます。その結果、僕のローグデッキの練度は上がり、Tier1のデッキを使うよりも、勝率が高くなります

同じ練習時間をTier1のデッキに費やしたとしても、良い成果は出にくいのです。前述の通り、僕は「好みでないデッキを使用して練習に打ち込むことが恐ろしく苦手」だからです。

つまり僕にとって、楽しむという要素は、マジックで勝つための重要なファクターなのです。

Tier1デッキで練習をし続ける高いモチベーションを持っているトーナメントプレイヤーは強いです。そして勝つために、そのスタイルをプレイヤーが目指すこと、それは正しいと思います。

僕が言いたいのは、「Tier1デッキで練習をし続ける高いモチベーションを、トーナメントプレイヤーの誰もが持っている必要は決してない」ということです。

これは「人間には向き・不向きがある」程度に考えてください。「無理な人には無理」という、それだけの話です。
「Tier1デッキで練習をし続けるのが辛くモチベーションを維持できない」というのが、その人の努力が足りないとか、トーナメントマジックへのコミットが足りないとか、そういうことではないのです。ましてや、ローグデッキを使うことがトーナメントプレイヤーとして相応しくないだなんて、ありえません。

それを知らなかったかつての僕は、思うように勝てず苦しんでいました。その頃は、楽しいデッキを使うことが、自らのモチベーションを上げ、その結果、練習の精度が上がって勝率が上がるという結果に繋がるなど、まるで考えていなかったからです。だから環境で最も強いとされるデッキを使い、負け続け、マジックのモチベーションがどん底まで落ち込んでいた時期もありました。

Tier1デッキで練習をし続ける高いモチベーションがなくても、トーナメントで勝てる可能性はあるのです。楽しいデッキを回し続けられるということは、はっきりと力になります。
マジックにおけるメンタル面、とりわけ「楽しい」と感じる気持ちは軽んじられやすいですが、これは間違いだと思います。「楽しい」と感じることは、マジックの魅力であると同時に、勝つためのヒントでもあるのです。

「自分で作ったデッキの方がなぜか勝てる」という人の中には、「楽しさ」が練習やプレイの精度を上げている可能性が大いにあります。そういったプレイヤーがGPやRPTQなど大舞台にTier1デッキを持ち込み敗北してしまうのは、自らの性質を理解しきれていないからであり、僕はそれが非常にもったいないと感じています。

結局、自分にとって最も勝率の高い方法を選択することが重要であり、その判断材料として、メンタルは大きな役割を担っているということです。

 

■世のローグ好きに

今、こうして僕の文章を読んでいる人の中に、ローグデッキが好きなプレイヤーはたくさんいると思います。そしてその理由も、千差万別でしょう。
その中で、僕と同じように「勝利」のためにローグデッキを選んでいる人はいるはずです。
「勝利」と「ローグデッキ」を二律背反だと思い、悩んでいませんか?
「なぜ強デッキを使わないのか」という意見に、耳が痛くなっていませんか?

僕は今回の話で、そういったプレイヤーに自信を持ってもらいたいと思っています。
勝つために必要な要素は決して一つではないのです。「デッキのギミックが楽しい」というのも、立派な一つのデッキ選択理由です。
「楽しいと感じること」と「勝利を求める姿勢」を切り離す必要はありません。楽しさを求めることを、勝利に繋げましょう。

「楽しい」は十分にデッキ選択に値する根拠です。悩むことなく、これからも僕と一緒に、ローグライフを歩んでいきましょう。